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東京高等裁判所 平成11年(お)1号 決定

主文

本件再審請求を棄却する。

理由

一  本件再審請求の趣旨及び理由等について

1  本件再審請求の趣旨及び理由は、請求人作成名義の「再審請求」と題する書面に記載されたとおりであるから、これを引用するが、要するに、次のようなものである。すなわち、請求人の夫である甲野(旧姓乙山)太郎(以下「太郎」という。)は、就寝中の被害者丙川花子から金員を窃取しようとして気付かれたため、同女を刃物で突き刺し死に至らせたという強盗殺人被告事件について、大審院により無期懲役に処せられ、その有罪判決が確定した。しかし、本件の犯人は丁野一郎こと丁次郎(以下「丁」という。)であって、太郎ではないことを認めるべき明確な証拠を新たに発見したので、再審の開始を求める。

2  請求人は、これを裏付ける具体的事実として、次の諸点を指摘している。

(1)  昭和五八年に至って、本件犯行に使用された刃物が、犯行当時丁が住んでいた借家の押入れの床下から発見されたこと

(2)  犯行直後に、丁が胸に血を付けて右借家に戻ってきたところを高松誠造に目撃されていること

(3)  犯行現場に残された足跡は、丁の地下足袋によるものであること

(4)  太郎が当時着ていた袖無し丸首シャツに付着していた血痕は、同人が犯人であることを裏付けるに足りるものではないこと

(5)  太郎の自白や目撃者等の証言は、警察官による拷問や無理な取調べによって得られた虚偽のものであること

(6)  丁自身がNHKの記者に対して本件の犯人であることを認める供述をし、この事実を知らせにきた記者が当方から取材した結果、テレビでニュース報道もされたこと

3  請求人は、以上の主張事実を立証する証拠として、平成元年八月八日付け書面による再審請求において提出した各証拠資料をすべて援用したほか、特に2(6)の事実に関する証拠として、NHK記者新井勝及び同カメラマン成田正孝両名の名刺各一枚のコピーを提出した。

二  再審請求の経過について

本件再審請求に至る経過は、次のとおりである。すなわち、

1  第一次再審請求(当庁平成元年(お)第三号)

平成元年八月八日付け書面でされた第一次再審請求においては、本件再審請求の理由として主張された前記一2(1)ないし(5)とほぼ同旨の事実が主張され、これを立証すべき証拠として、青森県弁護士会議事録等綴り(聴取書、録音要旨、鑑定書が綴られているもの)その他合計二二点が提出された。

しかし、当東京高等裁判所は、平成二年九月三日、確定判決が依拠した証拠とこれらの新証拠を詳細に検討した結果、「請求人が提出した各証拠資料を他の全証拠と総合的に評価判断しても、それらはいずれも、確定判決の事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠とは認められない。」として、同請求を棄却する旨の決定をした。

2  第二次再審請求(当庁平成八年(お)第一号)

平成八年二月四日付け書面で第二次再審請求がされた。しかし、この請求は、平成九年二月二四日、(1)再審請求書に原判決の謄本や証拠書類及び証拠物を一切添付していない上、(2)その理由として主張するところが第一次請求で主張した理由と同一であるから不適法である、として棄却された。

3  第三次再審請求(当庁平成一〇年(お)第一号)

平成一〇年五月一五日付け書面でされた第三次再審請求においては、前記一2(1)ないし(5)の理由に加え同(6)の理由が追加されたが、この点を立証すべき証拠は何ら提出されなかった。そのため、この請求は、平成一一年三月二四日、(6)の点についてはこれを示す資料が提出されていないから理由がなく、そのほかの主張は、既に棄却決定が確定している第一次再審請求で主張したのと同一のものであるから不適法である、として棄却された。

以上のとおりであり、本件再審請求は、通算四回目のものである。

三  刑事訴訟法(昭和二三年法律第一三一号)による改正前の刑事訴訟法(大正一一年法律第七五号。以下「旧刑訴法」という。)五〇五条二項の法意と本件再審請求の適否及び第一次決定の内容的確定力等について

1 現行刑訴法四四七条二項に相当する旧刑訴法五〇五条二項によれば、再審の請求を理由がないとして棄却する旨の同条一項所定の決定があったときは、「同一の原由」(理由)による新たな再審の請求はすることができないとされている。これは、同条一項の棄却決定が確定した後に、これと同じ理由により再審請求がされた場合には、後の再審裁判所は、前の棄却決定の判断に拘束されて(講学上のいわゆる「内容的確定力」)異なる判断をする余地がないので、このような本来容れられる余地の全くない再審請求は、そもそも不適法として最初から許さないこととしたものと解される。

2 そのような旧刑訴法五〇五条二項の立法趣旨からすると、ここにいう「同一の原由」とは、今回請求者により再審の理由として主張された具体的な事実関係とそれを立証すべきものとして提出された証拠のいずれもが、既に棄却された再審請求の際のそれと実質的に同一な場合をいうと解すべきである。逆にいうと、主張された事実関係と提出された証拠のいずれか(又はその双方)が前の請求におけるそれと実質的に異なるものであるときは、今回の再審請求は前の請求と「同一の原由」に基くものではなく、請求自体は適法であるということになる(実質的に新たな主張を伴っていても証拠が前の請求におけるそれと同一であれば「同一の原由」に当たるという見解もあり得るかと思われるが、従前提出されていた証拠を全く新しい観点から検討すると再審の有力な根拠になるということもないわけではないし、新たな主張について当初の段階では証拠が提出されていなくても、その後これを補充することが予定されている場合などについて、一旦再審請求を不適法として棄却しなければならないというのは、いささか窮屈に過ぎよう。したがって、「同一の原由」の意義については、前記のように解するのが相当である。)。

3 これを本件についてみると、本件再審請求においては、第一次再審請求では全く触れられていなかった前記一2(6)という重要な主張が新たに追加されており、証拠としても不十分ながら記者らの名刺二枚の写しが提出されているから、本件再審請求は、第一次請求と「同一の原由」によりされたものではないと考えられ、請求自体は適法であるということができる。

4 しかし、再審請求それ自体が適法であったとしても、そのことから直ちに、当裁判所が第一次決定の判断を離れて自由に証拠を評価し直すことが許されるわけではない。確定裁判にはいわゆる内容的確定力があるので、少なくとも、その裁判の主文を導く直接の理由は、重要な証拠が新たに提出されるなど特段の事情がない限り、後の裁判所の判断を拘束すると解される(最高裁第三小法廷昭和五六年七月一四日決定・刑集三五巻五号四九七頁参照)。これを本件に即して具体的にいうと、本件の第一次決定がその請求棄却の主文を導いた直接の理由は前記のとおりであって、要するに、「第一次再審請求の際に提出された証拠二二点は、再審を開始するに足りる新規、明確な証拠に当たらない。」ということに帰着するのであるから、第一次決定のこの判断は、右のような特段の事情がない限り、当裁判所を拘束することになる。

四  当裁判所における事実調査の経過等について

1  以上の見解に基き、当裁判所は、本件再審請求を適法なものと認めた上、主として前記一2(6)の主張事実の存否に焦点を当てて審理を進めてきた。

2 ところで、前記のとおり、本件再審請求書には、NHKの記者とカメラマンの名刺のコピーが添付されていただけであり、これだけでは、当裁判所を第一次決定の内容的確定力から解放するに足りる重要な証拠といえないことは明らかである。したがって、当裁判所としては、直ちに再審請求を理由がないとして棄却することも可能であった。

3 しかし、当裁判所は、本件事案の性質及び関係者の年齢、更には請求人が弁護人を選任していないことなど諸般の事情を考慮して、再審請求を直ちに棄却することなく、(1)請求人ないしその長男甲野三郎に対し前記ニュース報道の時期、内容の特定を求めるなどした上、(2)NHKに対し、このニュースの放映の時期とその内容及び前記二名の現在の所属等に関する照会を行い、(3)更にその結果に基き、両名に対し本件に関する書面照会をするなど、中立的な判断者としての裁判所の立場と矛盾しない限度で、できる限りの事実調査を進めてきた。その結果の概要は、以下のとおりである。

(1) 甲野三郎からの回答

前記(1)の求めに対し、甲野三郎からは、大要次のような回答があった。

①  NHKのニュースは、真犯人が自認したという内容ではない。

②  新井記者には、後にも「丙川花子を殺したと丁が証言したのは本当ですね。」と確認したら、それは事実ですという答えだった。

③  それからも再度聞いたら、「証言したのは事実ですが、これより前に進むと私にも家族にも身の危険があるから、どうしようもない。」とのことだった。

(2) NHKからの回答

前記照会に対するNHKの回答によると、問題のニュース報道は、仙台局で昭和六一年七月ころ放映した「兇器とされる刃物の鑑定は不能」というニュース、後日放映した「甲野さんの再審を訴える署名運動」のニュース、それに同じ年の秋ころ放映した「再審請求断念」のニュースであることが判明したが、当時のテープや原稿は保存されていないということであった。

(3) 成田カメラマンからの回答

成田カメラマンからは、大要次のような回答があった。

①  当時のニュースの取材の内容は記憶にない。

②  取材の過程で請求人やその長男の甲野氏と会ったとは思うが、頑張ってくださいと声をかけた程度にしか記憶していない。

③  ある人物から「丙川花子殺しの犯人は自分である。」と聞いたことや、その人物が自分が犯人であると認めたということを他の者から聞いたことなども記憶にない。

(4) 新井勝記者からの回答

新井記者からは、大要次のような回答があった。

①  一連のニュースの取材の過程で甲野さんと会ったように記憶するが、具体的な話の内容は記憶にない。

②  ただ、兇器の鑑定不能のニュースでは、教授から得た情報を直接伝えたと記憶する。

③  当時自分は、死刑囚の再審(松山事件)開始決定の取材を担当したことから再審に関心があり、本件についても様々な人物に取材した。その過程で、本件についての情報を寄せてもらえるよう依頼していた。

④  その結果、ある人物から「昔室蘭でNHKのいとうという記者が犯人に接触して、母国に返してくれれば犯行を認めると言われたことがある。」という趣旨の電話を受けた。こちらは、電話の主に名前と連絡方法を確認したが、相手は、「テレビで五所川原の殺人のことを流していたので参考にして欲しい。こちらは表に出る人間ではない。」として、名前も連絡方法も教えてもらえないまま、一方的に電話を切られてしまった。

⑤  しかし、電話の内容や声の安定度等から信用できると判断し、甲野さんに「うちのいとう記者が犯人に会っている。」「やはり真犯人がいる。再審も証言がとれればうまくいく可能性がある。」という趣旨の話をした。私自身も、これで再審の門を開けられればと期待十分だった。

⑥  局に戻り、いとう記者との連絡を試みると、確かに自分も良く知っているいとう記者を含めいとう記者との連絡はとれたが、いずれも「そのような経験」はないとの返事だった。

⑦  しかし、あきらめきれずに、その後も「退職者の中のいとう記者」「その経験を隠している可能性のあるいとう記者」探しを長時間かけて試みた。

⑧  しかしながら、結局、「犯人に会ったといういとう記者」は見つからずじまいになってしまった。

⑨  電話をかけてきた人物からもう一回電話がないかと待っていたが、電話はなかった。

⑩  他社のいたずらか嫌がらせか未だに分からないが、期待を持たせてしまった甲野さんには「あれは正しい情報ではない。」と否定できず、うやむや状態のまま歳月が経ってしまった。

⑪  甲野さんの再審を求める揺るぎない信念には、頭が下がる。

4 なお、当裁判所は、請求人に対し最終意見書の提出を求める際にも、以上のような事実調査の結果を明らかにした上、争点の所在を明示した詳細な説明を行っている。しかし、請求人提出の意見書は、後記のとおり、第一次再審請求の際に提出した「法医学の実際と研究」という書面に関連する鈴木禎次郎元裁判官とのやりとりを強調するに止まり、当裁判所の事実調査の結果については、末尾において、「NHKの件で裁判所は耳を傾けて調査してくれたことに感謝します。」としているだけであった。

五 当裁判所の判断

1 前記一2(6)の主張事実の存否に関する当裁判所の事実調査の結果は、右四の指摘に尽きる。

2 これによると、確かに、請求人又はその長男三郎が、NHKの新井記者から前記四3(4)⑤のような話を聞いた事実が認められる。したがって、請求人らにおいて「丁が自白した。犯人は丁に間違いない。」との確信を深めたことには無理からぬものがあると考えられる。

3 しかし、新井記者が電話で聞いた話は、同④記載の限度に止まるのであって、同記者に電話をかけてきた人物の氏名を特定することができないばかりか、同記者の懸命の努力にもかかわらず、犯人との接触の状況をこの電話の主に話したという「室蘭のNHKのいとうという記者」なる人物の存否も確認されていない。

4 このように、新井記者が電話で聞いたという話は、その出所も定かでない漠然とした再伝聞に属するものであって、その真偽を確認する手段すら全く見当たらない。したがって、このような電話を受けたという新井記者の供述のみから、真犯人である丁が犯行を認める供述をしたという前記一2(6)の事実を認め得るものではなく、他に、右事実を認めるに足りる証拠は提出されていない。

5 前記一2(6)の事実を認めるに足りる証拠がないとすると、他に特段の証拠の提出のない本件においては、前記三4記載のとおり、当裁判所は、「第一次再審請求の際に提出された証拠二二点は、再審を開始するに足りる新規、明確な証拠に当たらない。」という第一次決定の内容的確定力に拘束される結果、本件再審請求を理由がないと認めるほかないものである。

6  なお、請求人は、平成一一年一一月二七日付け意見書において、本件再審請求の理由として最も訴えたいのは、太郎が当時着ていた袖無し丸首シャツの背中側裏面に付着していた小血痕が被害者の返り血ではあり得ないということであり、この点については、請求人らが、昭和六三年に、第一審の審理を担当した鈴木禎次郎元裁判官と面会し、同人に対し、右シャツの血痕鑑定が太郎の有罪の決め手になったことなどが記載されている「法医学の実際と研究」中の鈴木禎次郎執筆部分を示して問い質したところ、同人は、「自分のしたことに間違いがあった。まことに申し訳ない。」「このことを皆さんに伝えてください。私はこれで弁護士をやめます。」などと述べて請求人らに謝罪したことからも明らかである、などと主張している。

しかし、この事実とほぼ同旨の主張は第一次再審請求でもされており、問題の書面の写しも提出されている。そして、第一次決定は、これらの主張と証拠を踏まえた上で、提出された証拠の証拠価値について前記のような判断をしているのであって、この点の判断も内容的確定力を有することが明らかである。

7  ちなみに、所論の援用する「法医学の実際と研究」の鈴木禎次郎執筆部分(「法医学的鑑定について」と題するもの)の該当個所は、概略、「自分は、本件を担当した当時、被告人の丸首シャツに肉眼では血痕が見当たらず、もはやあきらめようと思っていたところ、岩手医専(現岩手医大)の黒川教授により、シャツに人の動脈血と認められる小血痕が発見されたという鑑定が得られ、これが決め手となって、最後まで有罪で通った。黒川先生の鑑定は非常に立派なものと敬服している。」というものである。その中には、もとより自分の誤判を認める趣旨の記載は全くない。したがって、「この書面を見せて追及したら、鈴木元裁判官が間違いを認めて謝罪し、弁護士をやめるとまで言い出した。」という意見書の記載は、いかにも唐突で不自然の感を免れない。また、同意見書によれば、鈴木元裁判官は既に死亡したとされており、そうすると、右のやりとりの経緯の詳細やその際の同元裁判官の言動の真意等について確認する手段も存在しないことになる。

8  以上の次第で、本件再審請求は理由がないから、旧刑訴法五〇五条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事木谷明 判事田中亮一 判事下山保男 判事角田正紀 判事林正彦)

参考求意見書

請求人 甲野春子

被告人甲野太郎(旧姓乙山)に対する強盗殺人被告事件について、昭和一二年一二月一三日大審院が言い渡した判決に対し、平成一一年六月一一日請求人から再審の請求がありました。ついては、当裁判所は、別紙の経過で別添資料のような事実調査をしましたので、これらの説明と資料を参照の上、もし事件について意見があれば、一二月一七日までに意見書を提出してください。

平成一一年一一月一二日

東京高等裁判所第五特別部

裁判長裁判官 木谷明

甲野春子殿

(別紙) 説明

一 本件再審請求の理由の要旨は、被害者丙川花子を刃物で殺害した犯人は丁野一郎こと丁次郎であって元被告人である甲野(旧姓乙山)太郎(以下「太郎」という。)でないことを認めるべき明確な証拠を新たに発見したことにあると思われます。

二 ところで、本件については、平成元年の第一次請求以来、既に三回の再審請求がされています。そして、第一次請求においては、前記主張を基礎付ける理由として、(一)本件犯行に使用された刃物が犯行当時丁が住んでいた借家の押入の床下から発見されており、(二)犯行現場に残された地下足袋も丁のものであった上、(三)太郎が当時着ていたシャツなどに附着していた血痕も、同人が犯人であることを裏付けるに足りるものではなく、(四)太郎の自白や証人の証言は、警察の拷問ないし無理な取調べによって得られたものであるなどの点が主張され、これらの点を立証すべきものとして多数の証拠が提出されました。しかし、この請求は、平成二年九月四日付けの決定により棄却されました。その理由は、請求人が提出した各証拠資料を他の全証拠と総合的に評価判断しても、「確定判決である大審院判決の右事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠とは認められない」という点にあります。

三 次に、平成八年にされた第二次請求は、再審請求書に原判決の謄本や証拠書類等を一切添附していなかった上、その理由が第一次請求と実質的に同一であったため、同九年二月二四日付け決定により不適法として棄却されました。

四 続いて平成一〇年に第三次請求がされました。このときは、前記二(一)ないし(四)の理由の他に、(五)真犯人である丁自身がNHKの記者に対し本件犯行を認める供述をしているとの主張が新たに付け加えられましたが、この点を立証すべき証拠が何ら提出されなかったため、この請求は、同一一年三月二四日付けで棄却されました。

五 ご承知のとおり、本件に適用される旧刑事訴訟法四八五条によれば、有罪判決を受けた者に対し無罪を言い渡すべき明確な証拠を新たに発見したときは、請求人の利益のために再審を開始することができるとされていますが、他方、同法五〇五条二項によれば、再審の請求が理由なしとして棄却されたときは、同一の原由(理由)により再審の請求をすることはできないとされています。本件について、前記のように、第一次請求が棄却された後第二次ないし第三次請求が棄却されたのは、主としてこの理由によるものです。

六 ところで、今回の第四次請求の理由として請求人が主張するところは、実質的には第三次請求のそれと同一であり、この主張を裏付けるべき証拠としては、NHK記者新井勝及び同仙台放送局カメラマン成田正孝両名の名刺が提出されているだけで他に証拠の申出はありません。したがって、本件再審請求においては、結局第一次請求において提出された証拠とこの名刺二枚以外には新証拠はないという趣旨に理解されます。

七 しかし、第一次決定は、第一次請求において提出された証拠が再審を開始するに足りる明確な新証拠には当たらないと判断しており、この点の判断は、他に特段の事情がない以上、当裁判所を含むその後の再審裁判所を拘束すると考えられています。もちろん、本件請求において、従前提出されていなかった重要な証拠が新たに提出される等特段の事情があれば話は別ですが、当裁判所に提出された前記名刺二枚だけでは、新たに重要な証拠が付け加わったといえないことは明かであると思います。

八 ただ、当裁判所は、本件事案の性質及び本件については弁護人が選任されていないことなどを考慮して、直ちに請求を棄却することなく、前記名刺を手掛りとしてできる限りの事実調査をしてみました。その結果は別添資料のとおりです(これ以上の事実調査は、中立的な判断者であるべき裁判所としての立場からみて許されないと考えています。)。

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